C/2010 V1 池谷・村上彗星発見手記
（暫定版）
2010年11月7日
村上茂樹
2010年11月4日、午前2時に起床して身支度を調え、車を運転して午前2:30にいつもの観測地に到着した。46cmコメットシーカーを組み上げ、掃天に先立って103Pハートレー彗星の観望を楽しむ。
3:10にしし座のレグルスの西、数度のところから掃天を開始。しし座に13個の銀河を捕らえた後、明るく大きな銀河が視野に入ってきた。ナビゲーターを使って確認しようとしたが、候補が見あたらない！この時点でその天体が新彗星であると判断した。
次にやるべきことは位置を確定することである。もちろん、ナビゲーターが赤経赤緯を表示しているのであるが、星図を使ってさらに正確な位置を決定しなくてはならない。地平線上に明るい星が昇ってきたことに気づく。その星は発見位置から約3°のところにあり、おとめ座γである。何と幸運であることか。これならたやすく位置が決まると思った。
ところが、楽観的な予測とは裏腹に、ウラノメトリア2000星図上での位置確認は困難なものとなったのである。なぜなら、土星をおとめ座γと勘違いしてしまったのである！この誤解は次のようにして起きた。土星は5°と低空にあって暗く見え、しかも土星を見たのは8月以来初めてなのであった。とにかく何とか位置を確認することができ、4:31に国立天文台の留守電にメッセージを入れることができた。このことにより、遅くともこの時点において彗星を発見した、との記録をのこすことになるのである。
現場における暫定データ
2010
Nov. 4, 4:13a.m. (JST), RA 12h 35m, RD -1.9 deg., mag.=9, coma diameter=
4'
次に、4:33に中野主一さんに電話を入れると、すぐ電話に出てくれた。氏は驚いた様子であった。彗星の情報と状況を伝えると、中野さんは誰かに確認を依頼します、と返答して下さった。
私は彗星の移動を確認するために観測を続けた。すると、東(position
angle= 90
deg.)に短く幅広の尾があることに気づいた。そして、移動も確認！彗星は東に動いている。万事うまく進む！5:08に中野さんに再度電話して移動していることと尾のことを伝える。氏は、山形の板垣さんに確認を依頼し、板垣さんは観測所に向かったとのことであった。
薄明が進むにつれて彗星は淡くなり、5:15に視野から消えた。
コメットシーカーを撤収し、家に向かう。6時前に帰宅して、メールを確認するためにPCのスイッチを入れる。何ということか！板垣さんはすでに彗星を確認していたし、中野さん経由で板垣さんのデータと自分のデータが天文電報中央局(CBAT)に送られている。中野さんのメールのタイムスタンプは5:29であった。さらに、この彗星のことはNEO
Confirmation page
にも掲載されているではないか。
彗星が確認されたことに安心し、またそのプロセスのスピードに驚いた。すべてが終わったような気がして、彗星の詳細データを送ることを忘れてしまっていた。家でデジタル星図(MegaStar
ver. 5)を使って位置を決定し、その他のデータとともに中野さんに送った。
2010 Nov. 3.801 UT, 12h 35m.1, -02
01', mag.=9, coma diameter= 4' , tail
length= 2', position angle= 90 degrees
(east), motion= east 2'/
hour
7:40に中野さんからメールが届き、池谷薫さんが自分よりも1日早い11月3日にその彗星を発見していたことが書かれていた。自分には幸運であったが、情報の伝達においてトラブルがあったようである。池谷さんの名前が最初についたことは自分にとって大変光栄なことである。
私は、データに基づいてまだ彗星の眼視発見が可能であるとの信念を持っていたのであるが、それでもなお、もう新彗星を発見することは生涯を通してできないかもしれないと思っていた。ところが、実際には発見することができた。そして上記の信念を自分でも証明することができたのだ。物事に全力をつくせば決して後悔することはない。しかし、そうしなければ後悔することになるであろう。
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